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第29回磁石を応用した義歯

歯の根っこを活用し安定

質 問
75際の男性です。約10年前から、1本だけ残った歯にバネを掛けて入れ歯を使っています。先日、その歯が根元から折れて入れ歯がガタつき、うまく食事ができなくなってしまいました。
7年ほど前に内科の先生から骨粗しょう症と言われ、薬を服用しています。それを歯科の先生に話すと「歯を抜くにはしばらくの間、薬を中止しないといけない」と言われました。歯を抜かないでよくかめる入れ歯を作る方法はありますか?


回 答
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徳島県歯科医師会
奈良井 聡
第29回 磁石を応用した義歯
歯の根っこを活用し安定

長年残存した歯には大きな負担が掛かっています。ご質問のように、歯の根っこを活用した入れ歯の製作を行うには、十分な歯内治療や歯周治療をし、歯の健全化を図ってメンテナンスを行うことで、歯の根にアタッチメント(留め金)などを取り付けて義歯の維持安定を図ることができます。

歯の根っこを利用して義歯を安定させるアタッチメントの一つとして、磁石の引き合う力(吸引力)を利用した磁性アタッチメントがあります。磁性アタッチメントは、歯の破折や虫歯の進行で根っこだけになってしまった歯に、支えとなる金属(磁性ステンレス鋼)を固定し、入れ歯側に米粒大の磁石を固定したものです。強力な磁力によりガタつかない密着した入れ歯ができます。

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【上】歯根のコーピング(磁性ステンレス鋼)
【下】入れ歯の磁石

また、入れ歯の装着や取り外しも非常に簡単で、磁石の吸引力で所定の位置に容易に装着できます。例えば、手の不自由な方や、介護が必要で第三者が入れ歯の出し入れを行う場合も、操作が非常に簡単です。また、磁力の強さを調節できるので、部分入れ歯だけではなく総入れ歯にも適用することができます。

入れ歯は、唾液が介在して口腔粘膜との間に陰圧を作り、外れにくくなる仕組みになっていますが、これに吸引力が相乗効果として作用し、より安定した義歯となります。

磁性アタッチメントの特徴として①金属のパネを使用せず、見た目がとても自然 ②磁石の吸引力は時聞かたっても緩まない ③入れ歯の出し入れが簡単 ④強い磁石の力で義歯と歯をくっつけるのでぴったりフィットする ⑤強い力でかむことができる などが挙げられます。ただ磁石の入れ歯は保険適用外(自費診療)なので、各歯科医院で料金をお尋ねください。

このほかの注意点としては、病院などでMRI(磁気共鳴画像装置)検査を受ける場合があります。MRI検査は磁場を用いて検査するので、入れ歯の中の磁石に影響を与えます。入れ歯を外して検査室外に置いた上で、検査を受けることが必要です。また、磁石の入れ歯を使っていることを事前に検査技師などに伝えておくことが大事です。

歯科用磁性アタッチメントの国際標準規格「IS013017」が2012年に誕生しました。歯科の国際標準規格を策定する専門委員会において、日本が独自に提案した歯科補綴材料に関する国際標準規格は初めてです。国際標準化は、準備期間を含めると約7年の歳月をかけてようやく達成できた長期的な事業であるものです。