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第27回 口蓋裂の矯正治療

発育止まるまで経過観察

質 問
小学1年生の女児の保護者です。出生時に口蓋裂と診断され、1歳で口蓋閉鎖術を受けた時、将来に矯正治療が必要であることを説明されました。
最近になって上下とも前歯が生え替わりましたが、上の前歯が下の前歯より内側に生えており、噛み合わせが反対になっています。そろそろ矯正歯科を受診しようと思いますが、治療期間、方法および費用について教えてください。


回 答
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徳島県歯科医師会
川上 慎吾
第27回 口蓋裂の矯正治療
発育止まるまで経過観察

顎顔面頭蓋は、胎生初期に極めて複雑な機序で発生するため、数多くの先天異常を伴い、全身の異常のうち約70%は顎顔面頭蓋領域に集中しているといわれています。

日本人における口唇裂・口蓋裂の発生は、出生児400~600人に1人の割合で、他の人種民族に比べて高率ですが、その理由はいまだ不明です。また、本疾患はチームアプローチの下で専門的な医療技術を駆使することによって、口腔・顎顔面形態や機能を限りなく正常に近つけ、それを長期的に維持することが可能となります。

ご質問のように前歯が生え替わる時期であれば、矯正治療の段階ではI期治療の開始時期であると思われますので、速やかにお近くの矯正歯科を受診することをお勧めいたします。

治療期間は症状に応じてさまざまですが、一般に、発育が完全に止まるまでは経過観察が必要です。口唇裂・口蓋裂患者の一般的な矯正治療の流れ《図参照》は、生後間もない段階で口唇裂を伴うときは「ヘッドキャップ」といわれる帽子のような装置を用いて口唇裂部の離聞を防ぎ、口唇閉鎖術がスムーズに行われるようにします。

その後、口蓋裂を伴うときは1歳前後において口蓋閉鎖術が施行されますが、口蓋裂部の離開を防ぐために「ホッツ床」といわれる柔らかいプラスチックでできた装置を用います。

通常、口蓋裂を伴うときは、症状にもよりますが、上顎骨の発育不良が起きやすいため、ご質問のように反対咬合、いわゆる「受け口」になりやすいといわれます。

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矯正治療において一般的に、反対咬合が認められるときは、できるだけ早期の段階で治療を始めることが望まれます。その後、顎裂が存在するときは犬歯が萌出するよりも前の段階の9歳前後(歯の萌出には個人差がある)に左右の顎の骨を連続させるため、顎裂部に自分の腰骨を移植する二次骨移植が行われます。

将来的に永久歯が完成する時期、一般に中学生ごろになると、歯の表面に直接ワイヤを付けるマルチブラケットによる治療のⅡ期治療が行われます。Ⅱ期治療期間は症状においてさまざまですが約2~3年が必要です。

Ⅱ期治療が行われてマルチブラケットを外した後は動かした歯が元の位置に戻らないようにするために、保定装置を使って経過観察が行われます。結果として発育が止まるころまでは経過観察が行われるので、小学1年生からだと約10年は治療期間として必要だと思われます。

最後に費用に関しては、自立支援医療機関(育成医療・更生医療)で治療を受けると治療費の負担が軽減されるので、施設基準に適合した医療機関をお選び下さい。